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ソラニン (1)

ソラニン 1 (1)
浅野 いにお / 小学館
スコア選択: ★★★★





浅野いにおさんの『ソラニン』、第一巻。僕は連載の方は読んでなくて、書いてることさえ知らなくて、偶然書店でこの一巻を見かけて購入した。浅野さんには、「次世代作家」という枕詞がつくことが多い。僕はあまり熱心にマンガを読み漁っていないので、どの辺が次世代なのか、その判断基準は明確でないから、「ああ、そうなの?」って感じなんだけど、マンガについて十分に語れる人はいったいこの「次世代」という言葉にどう反応しているのだろう。

浅野さんは音楽が好き、なのかなあ。『素晴らしい世界』の第一巻、各話につけられたタイトルは、僕に分かるだけでも、半数以上が、既存の楽曲名や、バンド名を想起させるものになっている。たとえば「脱兎さん」、「森のクマさん」、「ワンダーフォーゲル」、「サンデー・ピープル」、「mini grammer」、「シロップ」といったように。そしてこの『ソラニン』における主人公(だと思う)の一人、種田成男もバンドマン。彼はOLの井上芽衣子と同棲してて、まあ恋人同士なんだけど、二人で同棲してるのは、種田がフリーターで一人で部屋を借りるだけの収入が得られないから。んでも、会社に馴染めず悶々としてた社会人二年目の芽衣子は、寝ぼけた種田の一言に押されて会社を辞め、無職に。しかし会社を辞めたところで何があるわけでもない芽衣子、そんな彼女は自分の隙間を埋めるためなのか、種田に本気でバンドをやってはどうかと提案する。ケンカ。種田とて、いつまでもプラプラしていられない。その「タイムリミット」はどんどん近くなっていく。そんな中で、今、このタイミングでバンドをやる=夢を追うということの不安。その真綿でノドを締められるような感覚を示す、種田のモノローグ―

「他人と比べないと自分がわからないというのは、悲しい」・・・「とはいえ、自分で自分を全肯定できるほどの自信もない」・・・「フリーター生活という ぬるま湯の心地よさ」・・・「真剣に何かをする時につきまとう、後戻りできなくなる恐怖」・・・「時間が経つにつれ、確実に減ってゆく選択肢」・・・「年取ったね 俺も」。

うぅ、身に染みる。まあ結局バンドを始めるんだけど(しかもバイト辞めて)、上手くいくはずもなく、取りあえず挫折。そして芽衣子と別れ話 → またケンカ。仲直りするも、芽衣子の前から姿を消す種田・・・。風邪を引いて、友達に囲まれながらベッドに横たわる芽衣子の独白が、また僕にはズンと響いた――

「2人のずっと先の未来が見えてきて、それは決して悪いものではなかったし、決して嫌ではないはずなのに、その未来に確信が持てなくて」・・・「二度とその場所から抜け出せない気がして、お互いにやり残した何かがある気もして、それなら不安を一つ一つ消していってやろうと思った」・・・「夢の中で走ってるみたいに 思うように前に進めなくて、その間にも あたしと種田の心のちょっとしたズレを感じてきて」・・・「いい意味でも悪い意味でも 種田はあたしにとって空気みたいな存在だから、もしいつかいなくなってしまったらと考えただけで」・・・「こんなに好きなはずなのに、ずっと一緒にいたいのに、ホントは、あたしは 心のどこかで 種田との生活を終わらせて楽になりたいと思ってたんだ」。

好きなんだけど上手くいかないって、この想いね・・・好きだからこそ、それなのに、空回る想い。フガー。気がついたら目が潤んでたよ。浅野さんのマンガって、ちょっと遠いようで、近い。たとえば道路の向こう側を歩いている人を見ていたつもりなのに、気がついたらいきなりその人が側にいて、しかも自分と親しげに話しているみたいな、そういう瞬間がまま訪れる。それは自分と「リンク」する瞬間なのかもしれないけど、なんとなくそのリンクの仕方が、浅野さんの場合、僕にとっては特別な気がする。好きです。ちょっと思わせぶりが過ぎる気もするけれど。

一巻の最後で、五日ぶりにかかってきた種田からの電話に、芽衣子は元気を取り戻す。種田は電話で大事なことを言おうとするが、電池切れ。おそらく芽衣子の部屋へ向かおうとスクーターを駆る途中、彼は「俺は幸せだ」と思い、しかし自問する。「ホントに?」と。そして泣く。ボロボロと。あの涙にはいくつもの解釈ができるだろうけど、僕は、「未来が決まっていくことのどうしようもないやるせなさ」が流させた涙だと思う。自分の未来がどこに向かっているか知ってしまったやるせなさ。こうやって可能性に満ちた人生は、1点に収斂していくんだという、ひとつの悟り。でもそこは、それは「幸せ」なんだよね、間違いなく。でも自問せずにはいられない。「ホントに?」って。で、泣いちゃう。寂しいのとイヤなのと、やっぱり何もできなかった普通な自分に。僕もきっとああいう状況になったら泣くだろう。

この一巻の最後の最後、自らかそれとも偶然か、種田は■■■■■■に■■して■から■を■■■。果たしてどうなる? 二巻が早く読みたくてたまらない。


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