人面の猿


■Amazonにどうやらデータがないようなので、書誌的事項は引っぱってこれなかった。もちろん、自分でそれらを記述することも可能なのであるが、つまりアレなので、面倒くさいので、割愛させていただきます。■以前にも取り上げた佐野洋(さの・よう)さんの著作である。『人面の猿』。話の概要、というか導入はこうだ。■「M」という実力者に制御・支配された松見という市が舞台である。これはもちろん、というのも妙だが、架空の市である。面白いことに筆者の註が付されており、それによると、実在の名を使うのは気が引けたということである。初めはなぜそんなことを気にするのかと、そう思うのだが、結末までいくと、なるほど、これはおいそれと実名を出すべきではないな、何かゲンジツとの接点を探られたら、たまったものではないなと、そう思える。話が逸れた。その松見市で発生した、ある高校生の自殺。そこに疑問をもった姉の告発がすべての発端だった。一方で、その高校生の自殺と同時期に起きた、ある風俗嬢の事故死。さらに、高校生の残した小説が、現実と奇妙に一致しているようである・・・。果たしてそこに書かれているのは、真実なのか。そしてまた、M氏が寵愛したチンパンジーが、後に地元のランドに送られるのであるが、そのチンパンジー、やがて妊娠が発覚する・・・。■一見、無関係に思える、これらの点が、やがて線でつながれていくのである。そして、ひとつの事件(といっていいだろう)の構造が、読者の頭の中に浮き上がってくる。それは、なんといったらいいのだろう・・・おぞましい、というか、まさかそんなことが・・・?という、作中の人物たちが何回も直面する思いと、同じモノを、読者の中に呼び起こすのである。■あまり内容に触れると、余計な推理を喚起するので、これ以上は言及しないが、僕はこの内容、かなり気を惹かれたので、一気に読み進めてしまった。切り口は違うが、近年のというか、少し前のバイオロジカルな要素が導入されたホラーにも、通じるものを感じる。科学的記述はやや弱いかもしれないが、それを補って余りある(と言ってしまうが)のが、登場人物たちの動機付けである。どこかの要素がヘタればタチドコロに崩れてるような、そんな微妙なバランスで成り立っている物語の場合、登場人物たちの動機付けがモノを言う。行動の動機がしっかりしていれば、読者たちは、微妙なバランスの物語だろうと、違和感なく、読み進めることができる。「えーそこでそんなこと言うのはおかしいよ」という思いは、心に沸いてこないのである。そしてこの『人面の猿』における、登場人物たちも、行動の動機がいちいち明確であるから、読者はスイスイと、よどみなく、物語を追っていけるのである。前にも書いたように、佐野さんの文章は平易にして論理的であるから、そこのところも、読みやすさ、読んでいての違和感のなさを、助けている。■それも素晴らしいが、僕はやっぱりこの作品で扱われている事件、その裏にある、人間の倒錯的な欲望というか、飽くことのない、常にエスカレートしつづける欲求、そこに魅せられてしまう。ラストの、ある人物の言葉が示している、これから行われるかもしれないことへの、ある一つの予測。その余韻は・・・極めて強い。■とにかく面白かった。事件の構造が気になる人は、今すぐ古本屋へとべ!

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