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『第六実験室』

第六実験室
佐野 洋 / / 角川書店
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■またもや佐野洋(さの・よう)である。フハハハー。祭りだ。■というわけで、『第六実験室』。とある企業の地下に設立された(といってもそんなに立派ではない。当初は所員は所長と事務員の二人しかいない)、「完全犯罪研究所」。それは名の通り、完全犯罪を研究する場所。研究してどうするかって話だが、名目としては、(完全)犯罪を研究することで、公的機関とは違った方向から完全犯罪を眺め・関わることを試みようと、そんなような話である。関わり方には、完全犯罪の防止や、あるいは起きてしまった(完全犯罪と思われる)事件についての調査、といったものが考えられる。■話は研究所の発足から始まり、やがて研究所で行われる実験の被験者が集められる。そして被験者を数人に絞り込んだ後に、いよいよ完全犯罪についての研究が始まる。■しかし物語は、ひたすらに完全犯罪を研究するような形では進まない。研究所、あるいは研究所を飛び出して、外で実践的に行われる「完全犯罪研究」という軸に、少しずつ、ミステリな要素が加わり始める。誰の視点か分からないパートが何回か途中に挿入されるのである。それは果たして誰の視点で、何を意味しているのか・・・。■やがてある事件が起きて、研究所がいかに利己的なものだったかが明らかになるわけだが、最後の最後に、それまでとはまったく違った方向から、「完全犯罪」という言葉の意味が浮き上がってくる。まさに文中で言われているようなやり方でもって、最後にある人物が、完全犯罪のための完全犯罪をやってのけるのである。いってみれば二重構造。最後に読者は、それまで頭の中で描いていた、ある「完全犯罪」が、別のより大きな「完全犯罪」の中に埋め込まれていたのだと、ハッと気づく。■ラストにスパン!とその構造を、その切り口を見せてくれる、その手腕の鮮やかさ。うなる。そういった幕切れは、長編でありながら、あとに余韻を残さない、短編的な匂いを感じさせる。いったいどこからこういった話を組み立て始めるのだろう。僕は構造的に入り組んだ話を読むたびに、作家さんの内面、あるいは作品のアウトプットの過程を知りたくなる。

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