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『ある朝スウプは』


 

ある朝スウプは [DVD]

エースデュース

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 群青いろという映像ユニットの作品。


群青いろ Gunjyo Iro
高橋泉(たかはし いずみ・1973年埼玉県生まれ)と廣末哲万(ひろすえ ひろまさ・1978年高知県生まれ)が2001年に結成した映像ユニット。ぴあフィルムフェスティバル(PFFアワード)2004にて、『ある朝スウプは』『さよなら さようなら』の2作品がグランプリ、準グランプリを独占。その後、『ある朝スウプは』は世界の映画祭でも多数の賞を受賞した。また、初の劇場公開作品となった『14歳』では、香川照之らを迎え、14歳前後の少年少女の不安定な感情を描き、第36回ロッテルダム国際映画祭で最優秀アジア映画賞を受賞。『鼻唄泥棒』(05年)でも同賞を受賞しており、2年連続受賞となった。
TOKYO SOURCE

 
 私は『14歳』のフィクションを超えた残酷さが、
 しごく気になってしまって、同じユニットで作られた本作を。
 
 壊れそうな人間を支えられるのは、宗教か、恋人か。
 パニック障害で家に篭りがちになった北川と、同棲する恋人の志津。
 ほぼこの二人しか出てこない。
 やがて新興宗教に傾倒していく北川。
 劇中でも言われるんですが、新興宗教につきまとう、
 ある種の気持ち悪さ(必ずしも"悪"ではなくて、"気持ち悪さ")を、
 北川役の廣末哲万氏が見事に体現。
 そこから引き離そうと躍起になるものの、
 明確な理由を口にすることが出来ず、
 北川を看破できない志津のやりきれなさ、悔しさ、苛立ち、
 それでも諦めきれない強さ(あるいは弱さ)を、
 『14歳』の繊細な教師役とはガラリと違う演技で見せる並木愛枝。
 
 結末が気になるから、というのもあるが、
 その結末まで引っ張り続ける力は、二人の演技にある。
 失礼ながら、美男美女のトレンディな恋愛でもないのに。
 華やかな舞台など何もない。
 古ぼけたアパートで慎ましく暮らす20代後半の男女。
 ただそれだけなのに。なのに。

 DVDに収録されている対談によれば、
 役者には絶対口にするべきキーワードだけを与えていて、
 あとは特に指定をせずに、演技をしてもらったそうだが、
 どれだけが、アドリブ的な言葉になっているのだろう。
 ときどき北川の言葉が噛んだような形になったりするのは、
 意図的なのだろうか。不思議なリアリティが生まれている。

 個人的クライマックスは、セミナーに行きたいがために、
 志津の財布から金を取り、トイレに逃げ込んだ北川と、
 それを窓からモップの柄で突く志津のやりとり。
 「北川くん病気なんだよ?
 セミナーに行って何がどうなるんだよ?具体的に言ってみろ」という志津に、
 「じゃあなんで行っちゃいけないんだよ?具体的に言ってよ」という北川。
 言葉に詰まる志津に、無精髭でにやりと笑う北川。
 「気持ち悪いだけだろ?」と嘲笑うように言う。
 「なにキリスト教、イスラム教、仏教?
 大きなところだったらいいんですか?」
 興奮してまくしたてる。
 
 噛み合わない。すれ違う。

 分かりたい。分かってあげられない。
 分かってほしい。分かってもらえない。

 他人だから。

 たしか二回ぐらいこの言葉
 ―他人なんだよ、他人なんだね―が出てくる。
 人と深く関われば関わるほど、
 沸いてくる、ぶつかる思いですね。
 どれだけ愛しても、
 100%分かりたいと思っても、それは不可能。
 他人だから。

 他人であることを受け入れる志津と、
 団体の施設へ入るのだろうか、
 部屋を出て行く北川、二人の朝食、がラストシーン。
 その食卓(といっても小さな卓袱台)が、
 『ある朝スウプは』というタイトルに繋がるのだろうか。

 監督は、"他人だ、けれども"、という部分を描きたかったそうだ。
 他人であるけれども、その先に希望があるんじゃないかと。
 心の狭い私は、残念ながら、その"希望"を感じ取れなかった。
 他人は他人なんだと、だったらそこから、そこに、
 素敵な関係性を築こうじゃないかと、割り切れない。
 なんでなんかなー。

 あと、妙に考えてしまうのは、新興宗教を、
 悪として描いていないからだろう。
 私は志津側の人間なので、
 彼女が北川に感じる、というか、
 彼が傾倒する宗教に感じる気持ち悪さは、実に共感できる。
 しかしそれによって、北川が心底救われているという点が、
 要所要所で強く描かれているからであろう。 

 「北川くん、そんなんじゃなかったじゃん。ねえ」

 って訴えるような志津の言葉が、とても切なかった。
 だから彼女は、北川から離れられなかったのだろう。
 最後に涙するのだろう。

 悲しい映画です。それが私の感想。



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