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『蝿の王』 - LORD OF THE FLIES

蝿の王
ウィリアム・ゴールディング 平井 正穂 William Golding / 新潮社
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ウィリアム・ゴールディングの代表作であるという『蝿の王』。イギリス古典といってもいいんでしょうか。『世界文学全集』なんかにも収録されているようですが、まあそれはいいか。前から読みたかったんだけど、後手後手になってしまって、ようやく読んだ。

いつの時代かは分からないが、大戦のさなか、疎開先へ向かう途中、砲撃を受けて無人島に不時着した飛行機。乗組員は行方不明になり、残ったのは、飛行機に乗っていたイングランドの少年たちの一団のみ。彼らは隊長を選び出し、規則を作り、烽火を上げ、救助が来るまで無人島で平和に生活を送ろうとする。それは実際途中までうまくいくのだけれど・・・次第に表面化する、隊長ラーフと、もともと合唱団の長であったジャックの対立。救助を第一に考えて、ときには目的を見失いながらも、理性的な判断を下すラーフと、顔に粘土を塗りたくっての狩りに象徴されるような、いわば本能的な欲求に基づいて行動するジャック。この2人の対立が激化していく過程がすんごいゾクゾクする。もちろん、無人島の美しくて厳しい自然についての描写や、少年たちの動きに関する活き活きとした描写も素晴らしくて、それがあるからこそ、逆に上記の「黒い」部分がどす黒く感じられる。

次第に島に立ち込め始める暴力と死の匂いが、たまらなく恐ろしい。「悪」に飲み込まれて転落していく少年たち。こういった転落の物語ってえと、僕はキングの『ゴールデン・ボーイ』を思い出すが、やはり人間の内部にある悪や暗黒というのは、昔から書き手の意欲を掻き立ててやまないということなんでしょうか。

最後にはイギリスの巡洋艦に発見されて、救出される少年たちであるけれど、島にやってきたイギリス士官が口にする言葉が印象的だ。

「なかなかおもしろそうに遊んでるじゃないか」

少年たちの間では死者も出ているというのに、「遊び」という言葉でこれを片付けてしまう(もちろんその時点では、士官は、死者が出ているということは知らないのだが)大人の大きさ、冷たさ、あるいは戦争というものがそうさせているのかもしれないけれど、そこにある「現実」には拍子抜けさせられてしまう。「君らがやってることは、現実に比べたらたいしたことじゃない」とでも言うような。ということで、最後にはキッチリ「現実」が顔を覗かせて、幕を下ろす。

タイトル「蝿の王」という言葉は文中にも出てくるし、解説でも触れられているけれど、ベルゼブルのことだ。大きな蝿の悪魔。これは少年たちの心の底に潜む悪魔を意味しているんだろう、きっと。文中ではサイモンという少年が、「獣」に捧げられた「豚の頭」を「蝿の王」として、自己の内部に眠る何者かと会話をしているけれど。うーん、恐ろしい話だ。現代でも全然通用する物語。魅力的っていうと語弊があるかもしれないけれど、本質的な部分で心を惹きつけてやまない何かがある。僕はこういう物語が好きなんだな、たぶんそう。なぜかは分からないけれど。他の作品も読んでみたいなあ。

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