死者の電話

死者の電話
佐野 洋 / 新潮社
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■『死者の電話』は佐野洋(さの・よう)さんの短編集。推理小説?ということになるのだろうか。阿刀田高さんの『恐怖コレクション』において「エナメルの靴」という作品が紹介されており、そこに興味を持った僕は、前から佐野さんの作品を読みたかった。そして1冊目がコレ・・・っても刊行されたのだいぶ前だけど。■佐野さんの作品の特徴は、解説にもあるように、その論理性だ。しかも平易。平易な論理性ってのも妙な表現だけど、本当なんだからしようがない。たとえば、表題作“死者の電話”においては、「突然かかってきた電話の相手が1年前に死んだはずの男だった・・・」という設定から始まり、その裏にある巧妙な仕掛けを実に論理的に、読み物として提示してくれている。コレにきちんと現実的な説明がつくんですぞ! “暗い窓”という作品においては、全編が電話口での会話という体裁を取りながら、とあることがきっかけで殺人の被害者となることを免れる女性の姿が描かれる。■まったくその設定の巧みさには驚きますが、それを読み物として面白く描いてくれる佐野さんのスタイルはまっこと素晴らしい・・・って僕が言うのもおこがましいが! 僕が1番面白かったというか印象的だったのが最後の“赤い蜘蛛”である。これはちょっとばかし上述の『恐怖コレクション』、そして前々回紹介した『アイデアを捜せ』の中で阿刀田さんが重ねて取り上げていた、ジョン・コリアの短編“死者の悪口を言うな”を彷彿とさせる。これは田舎町の医者が地下室でセメント作業中に、村人に話し掛けられるんですが、村人は医者の妻の不在を不思議に思うんですね。で、「奥さんはどこ行ったんですか?」と尋ねるわけ。で、医者は「隣町の○○のとこだ」というが、村人は「隣町にそんな人はいない」という。医者が「牧場を通って行った」といえば、村人は「あそこは通るのが大変だ。通るはずがない。けれど表通りでは会わなかった」という。そこで村人は、目の前にあるセメントを塗られた床を見て、ハッと思い当たる。そして医者の妻がどんなに尻軽の女であったかを語り、医者が殺人(=妻を殺害)を犯すのももっともだ、自分たちは黙っているとも、と約束してその場を立ち去る。・・・その後、医者のもとへ妻がやってきて、「汽車に乗り遅れた。車で隣町まで送ってくれ」と言う。医者は妻に、「戻ってくるところを誰かに見られたか?」と確認する。妻は「いいえ」と答える。医者は・・・「ちょっと・・・地下室へ来てくれないか」と妻を呼んで、話はそこで終わる・・・。■要するに、おっちょこちょいな村人のおかげで、医者は妻の本性を知り、しかも殺害方法まで教えてもらい、口裏まで合わせてくれるというので、「じゃあ殺してしまえ」という考えに至るという、ブラックなお話なのですが、本作に収録の”赤い蜘蛛”もそれに似た構造なんですな。とある判事が新聞記者に向かって口にした「女性の喘ぎ声」に端を発して、1人の女性が殺害されるんですが、その犯人は・・・ってな話。お見事だなあ。どの作品も最後の数行で話のからくりが見えてくるんだけど、それが見えてくる瞬間が、なんとも気持ちいいんです。キリが晴れるような、絡まった糸が解けるような。しかも読みやすい。サクサク読めて面白いってのは、素敵なことです。

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