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『脳波の誘い』

脳波の誘い
佐野 洋 / / 講談社
スコア選択: ★★★★




■すっかり自分の中で佐野洋(さの・よう)祭りが行われていて、最近は佐野さんの作品しか読んでおらぬ。僕の行きつけの古本屋には、まだまだ佐野さんの作品がこれでもかってくらいに眠っているので、息が切れるまではガンガン読んでいこうと思う。というわけで、今回は『脳波の誘い』。■脳波で人を意のままに操れるという、奇妙な老人が、自分を出版社に売り込んでくる。彼は、難事件の犯人を自首させたのも、自分だと言い張る。脳波で説得したのだと。自分の書いた本を出版してくれないかと持ちかける老人に、雑誌記者はある条件を出す。「脳波で人を自殺させることができたら、出版しましょう」と・・・。■なぜ「自殺」という行動なのかと言うと、どこどこへ行けとか、ナニナニを持ってこいとかいう行動だと、その人物が金品で誘惑されないとも限らないからである。だから記者は、ある人物の名を挙げて、「自殺させてみろ」と言った。もちろん彼は冗談のつもりだった。老人の世迷言を出版するわけにはいかないから、そんな条件を出したのだった。ところが! その人物は本当に自殺してしまった! 果たしてこれは? ■老人が実はデスノートを持っていたとかそんな話ではない。当たり前。でも手を汚さずに人を殺害するってところは共通点だ。とは言っても、これは昭和30年代に書かれたお話! そして、しかしながら、話の早い段階で、読者はこの「自殺」が、例の老人の脳波によるものではないことを、なんとなく気配で気づいてしまうだろう。もちろんそこ『脳波で死んだのか否か』が話の軸ではないからだろうし、作者の性質にもよるのだろうが、今っぽい作家だと、この『果たして脳波で自殺したのか否か』という点に重点を置いて、話を引っぱりまわしそうである。もっと超常現象的な要素を前面に押し出すというかね。■でも佐野さんはそんなことはしていない。あくまで老人の「脳波」の話はつかみにしか過ぎなくて、果たして誰が、どうやって、何のために、自殺にみせかけて殺害したのか、という点を、延々と追いかけていく。最も怪しい容疑者(それは例の雑誌記者であるが)が犯行を自供したことで事件はスッキリ解決するかと思われたが、意外や意外、真犯人は法廷で暴かれる。解説ではこの作品は「法廷モノ」の先駆けだと書かれているが、なるほど、確かに法廷モノである。よくもまあ、こんな形で事件を解決させる方法を思いついたもんである。■傑作であるけれど、しかし僕の中では『人面の猿』は抜いていないなあ。

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